オカリナ演奏を通じて“清張の魅力”を伝える
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40歳を過ぎた頃から本格的な小説執筆に取り組んだ松本清張は44歳で芥川賞を受賞。82年の生涯で一千編に及ぶ作品を発表し、それらは今なお根強い人気を保っている。旺盛な好奇心と幅広い探究心、並外れた読書量や知識欲に支えられた清張の前向きなライフスタイルは、高齢者にとっても大きな励みになると語る古賀さん。それぞれ作品イメージを得意のオカリナで奏でる取り組みは、清張作品の魅力をいっそう引き立てている。
-オカリナを始めたきっかけは・・・?
今から六年前、若松区長になった頃、地域の集まりで挨拶する機会が多かったんですが、区長が来て何か喋って行った程度の反応で、ほとんどの参加者は私が話した内容を覚えていなかったんですよ。
或る高齢者の集まりで講演した際、健康で長生きを心がけ、このまちの良さを子供たちに語り続けてくださいとお願いした後、ポケットからオカリナを取り出して「ふるさと」を演奏しました。
すると、皆さん歌い出したんですね。まだ始めたばかりで下手な演奏でしたが、「これはいいな」と手応えを感じました。それからは地元の集まりに出席する度にオカリナ演奏を披露したんですが、参加した皆さんが私の話をしっかり覚えてくれるようになりましたね。
-その当時の経験が、今の業務にも活かされているんですね。
館長になる前、清張作品を読む機会は余り無かったんですが、就任後、幅広い知識に裏打ちされた清張さんの洞察力と表現力に魅了され、多くの作品を貪るように読みあさりました。
「郷土が生んだ大作家」松本清張の作品や人となりをもっと多くの市民に伝えたいとの思いから、清張作品とオカリナ演奏をコラボさせることを思いつき、各作品の中に出てくるキーワードを参考にしながらオカリナの選曲をしています。
館内で行われる朗読会や企画展、市内各所で開催される清張関連イベントなどで演奏する楽曲は童謡唱歌を中心に百曲ほどですが、例えば、清張の代表作「点と線」や「砂の器」では、その背景描写として「浜辺の歌」や「ふるさと」などを紐付けて演奏します。
-清張記念館の年間来場者は?
コロナ禍があけ、来館者数が戻りつつあって、現在、3万人前後ですかね。大体、年間平均で5~6万人位。25年間で150万人が来場しています。
年に2~3校、百人ほどの小学生が来館しますが、引率の先生方も松本清張についてよく知らないので、最初は挨拶を兼ねて5分程度、清張さんの話をします。その時、子供たちが憧れる職業、例えばサッカー選手とかYouTuberとか、最近ではMLBで活躍する大谷翔平選手の並外れた努力や高額な報酬を、清張さんの業績と比較しながら説明すると、そのすごさを分かってくれます。
また、ジブリ映画のシーンと記念館の展示物を紐付けて話すと子供達の関心が高まるようです。やはり、子供達のモチベーションを高める工夫をしないと、「努力の天才」と言われる清張さんの業績や魅力は伝わりませんね。
-松本清張と火野葦平にはどんな接点があったんでしょうか。
清張さんが「或る小倉日記伝」で芥川賞を取ったのは44歳の時で、葦平さんは31歳の時、「糞尿譚」で第六回芥川賞を受賞しています。清張さんは1909年生まれで、葦平さんが1907年生まれですから、ほぼ同年代ですが、清張さんの芥川賞受賞は葦平さんのかなり後です。
受賞後、清張さんが葦平さんに宛てた書簡を読むと、「鳥肌が立つ思い」としながら、「なまじ芥川賞など貰って、自分の進行に戸惑い、手も足も出なくなるのではないかと、うれしさよりも、その心配、その気苦労で、やせる思いがする」と書いています。
葦平さんは「芥川賞に縛られるな、殺されるな、思う通り書け」と激励していますが、清張さんからすると、背中を強く押されたような、ありがたいアドバイスだったと思いますよ。
その後の二人の作家活動は大きく異なってきます。1960年1月、葦平さんは世を去り、清張さんは「日本の黒い霧」を発表してノンフィクションの分野に進出。その年の所得が作家部門第1位になるなど、まさに「時の人」になりましたね。
-子供達に松本清張の魅力を語る上で心がけてことは・・・?
清張さんの業績についていつも話すことは、82年の生涯を通じて常に現役であったということです。研究分野をどんどん広げて行く好奇心と探究心、気がついたら日本を代表するベストセラー作家になり、映像メディアの分野でも多大な足跡を残す国民作家になっています。
貧しい家庭に生まれ育ち、高等小学校卒の学歴で印刷画工として働き、41歳で作家となった清張さんは、まぎれもなく「叩き上げの作家」であり、恵まれた家庭に育った葦平さんとの大きな違いだと思います。人生って本当に最後まで行かないと分からないことを実感しますね。
記念館を訪れる青少年には、そうした清張さんの生涯を通じて、努力や読書の大切さとか、くよくよせず前を向いて興味を広げ、やりたいことをやっていく生き方を学んで貰いたいですね。そうした意味で、清張さんの「生き様」が連続ドラマ化されることを願っています。
<松本清張記念館1階(松本清張全著作)>
松本清張記念館:https://www.seicho-mm.jp/