若松(Wakamatsu)の観光振興を考える
<特別寄稿>
九州国際大学 現代ビジネス学部地域経済学科 教授
Choi Keum jinさん
若松を興す
豊かな自然、歴史文化遺産に恵まれた“Wakamatsu”
昨年末から今年始めにかけて若松(Wakamatsu)を旅行しました。初回は若戸渡船を使って南海岸沿いの若築(Wakachiku)史料館や旧古河(Furukawa)興業ビルを見学。二回目はミカン狩りとグリーンパーク周辺を歩き、三回目は小倉を出発して若戸(Wakato)大橋を渡り、北海岸地区や文学関連の歴史を探索。若松地域全体を見学したとは言えませんが、三回の訪問を通じて若松地域の魅力を感じることができました。
先ず、第一は、若松が小倉中心部からさほど遠くない場所に位置し、豊かな自然資源に恵まれている点であり、二つ目は日本の近現代史を探究できる歴史的な場所であること。三つ目は日本の近代化に貢献した人物や著名な文学者を排出した地域であるという点です。
自然資源について見ると、果樹園でのみかん狩り体験や北西部に広がる肥沃な野菜畑。バラ園や熱帯植物園を備えた広大なグリーンパークや貯水池を周遊するサイクリングコースなど、家族連れが楽しめるレジャー空間が演出されています。また、北海岸地区の脇田(Waita)海釣り公園では響灘(Hibikinada)に突き出した五百メートルの桟橋で釣りを楽しめます。さらに一年中、サーフィンが楽しめる岩屋(Iwaya)海岸や広大な海原に向かってぽつんと建つ真っ白な灯台は絶好の写真撮影スポットです。若戸大橋や洞海(Dokai)湾、遠方に皿倉(Sarakura)山を望む高塔(Takato)山からの夜景は「日本新三大夜景」として全国に紹介されました。
第二に、赤い橋を背景にした撮影スポットとして人気のある南海岸は、19世紀から20世紀初頭に建てられた洋風建築が残るレトロ地区で、地域全体が映画セットのような雰囲気を醸し出しています。 ここでは実際に数多くの映画やドラマの撮影が行われ、石炭景気に沸いた当時の若松の歴史を感じることができます。旧古河鉱業ビルと上野(Ueno)ビルは、100年以上の歴史を有する建物で、華やかだった当時を感じさせる姿が維持され、今でも使われている魅力的な歴史文化財です。
第三に、北九州市は多くの作家を輩出した地域として知られています。小倉出身の松本清張(Matsumoto Seicho)や若松出身の火野葦平(Hino Ashihei)など、日本を代表する小説家の足跡を見ることができます。
このように、若松(Wakamatsu)には魅力的な観光資源が揃っています。 しかし、北九州市を訪れる観光客のなかで、若松まで足を運ぶ人が少ないのはなぜか。その理由について掘り下げてみたいと思います。
“Wakamatsu”を訪ねた若者たちの反応
今回は国内観光客の視点から,Wakamatsuに足が向かない理由を、若い世代の意見を中心にまとめてみました。
まず、 若松旅行に参加した学生たちの意見をまとめてみると、ほとんどの学生が若松についてよく知らないということでした。しかし、実際に訪れてみると、「来てよかった」、「良いところだ」との反応が多く、北九州市で学ぶ学生たちにすら、若松地域の観光資源が知られていないことが分かりました。
その他、公共交通機関が不便であること。若者向けの施設がない。カフェやレストランなど景色を見ながら飲食を楽しむ施設がほとんどない。さらに観光資源や施設に関する説明をQRコードで見ることができるような設備がないなどの意見が出されました。
以上のことから、①広報不足、②不便な交通アクセス、③商業施設(宿泊施設を含む)の不足などが今後取り組むべき課題であることが分かりました。
広報不足の問題については、自治体と地元企業が計画性を持って実践すれば、十分に改善できると思います。最近、多く使われているSNS(Social Networking Service)への露出拡大を図り、観光地や地元店舗が割引クーポンなどの特典を提供するプロモーションを実施することが、手軽に実践できる誘致策です。
特に、観光マネジメントを専攻している韓国の大学生たちが発信している観光体験YouTube動画は、対象地域への関心を集める有効な方法として注目されています。北九州市を訪れた観光客が、北九州空港或いは小倉駅周辺から若松まで移動する過程を、興味深く洗練された動画で発信すれば、多くの人々の観光意欲を高めると思います。
観光地“Wakamatsu”の魅力を高める
先ず、動画制作のテーマとして提案したいのは、門司港-小倉-若松を連携させた日本の近代産業史をテーマにしたコース、自然豊かな海岸線の魅力を網羅したコース、そしてアニメの聖地としての漫画博物館、文学サロン、市立文学館、松本清張記念館、河伯洞(Kahakudo)など、ポップカルチャーと文学を連携させたコースを企画すれば、北九州を訪れる観光客の行動範囲を若松地域にまで拡大することができると思います。
次に、アクセシビリティについてですが、公共交通機関の利便性を改善しなければ解決できない問題だと思います。 これを需要と供給のバランスという視点からみると、容易に解決できる課題ではありません。自治体に若松を観光地として発展させたいという意志があるならば、果敢な投資が伴わなければなりません。
直ぐには交通機関の改善が難しいと思われるだけに、小さなことから改善できる方法を模索してみてはどうでしょうか。若松までのアクセシビリティが不便であっても、移動する過程が楽しければ、旅行者も喜んで不便さを受け入れ訪れると思います。例えば、戸畑(Tobata)・若松間で運行する渡船を活用してみてはどうでしょうか。
現在、地域住民の移動手段として利用されている渡船の一部を、観光客のために運用してはどうでしょうか。コースを一部変更して、遊覧気分が味わえるように乗船時間を延ばし、船の中に写真撮影スポットをつくり、高級感のある船内デザインを施し、ユニークなお土産などを販売するなどの案が考えられます。こうすることで、ぜひ一度乗りたい船、単なる移動手段としてではなく、乗船自体が目的になる船があれば、観光目的で若松を訪れる人たちが増えると思います。
最後に、商業施設の不足問題ですが、これも難しい課題です。特に若松地区の場合、開発が厳しく規制されている地域(市街化調整区域)が多く、宿泊施設はもちろん飲食店なども開業も難しいと聞いています。住民と自治体が観光開発を自発的に推進する他に改善される余地はなさそうです。そこで、現在の状況に合わせて小規模で素朴な方法を模索することから始めてはどうでしょうか。例えば、農漁村での民泊制度を整えて、観光客を受け入れる方法が考えられます。農業体験や漁業体験ができるプログラムを拡充して、「現地の人々と生活する」などのコンセプトで滞在時間を増やし、若松の他の観光資源も探求できる機会を提供するのも一つの方法だと思います。
いずれにせよ、若松の観光振興策は、手軽に始められることを地域の若者たちと連携しながら進めることで、可能性が高まると思います。
※ 崔先生の経歴につきましては、九州国際大学 現代ビジネス学部 地域経済学科の下記ホームページをご覧ください。