若松あつまる会会員、釜山市ヨンド区を視察
若松を興す

ヨンド区役所関係者との記念撮影
若松北海岸地域における観光振興のヒントを探るため、若松あつまる会会員を中心に、4月1日から2泊3日の日程で釜山市ヨンド(影島)区を視察しました。
造船業の低迷による企業倒産が相次ぎ、釜山市の中でも衰退著しい地域だったヨンド区は、「芸術と都市のなかの島・文化都市ヨンド」をコンセプトにした都市再生事業に取り組み、海沿いのカフェ街は多くの若者が訪れる人気スポットになっています。
今回の視察では、そうしたカフェ施設を中心に、都市ブランド・ロゴの制作や芸術文化事業など、プロジェクトリーダーとの懇談を通じて多くの知見を得ることができました。

<釜山市ヨンド区視察レポート>
4月1日(火曜日)
1.影島(ヨンド)区役所での懇談
・ヨンド区役所側参加者 : 金キジェ区長、都市再生チーム長、他
・ヨンド区の現況 : 人口10万3737人(2024年12月現在)、面積14.2㎡(釜山市の1.8%)
韓国の近代造船の誕生の地であり、海洋クラスターが形成され、海洋産業のメッカになっている。近年、文化観光都市を目指した観光資源の開発、都市ブランディングによる新しい観光資源の開発など、海洋文化観光都市としてのまちづくりが進められている。
<都市再生事業の特徴>
造船産業の不況により閉鎖した廃工場や空屋の建物を再生し、様々な複合文化空間として利用。カフェを中心に飲食サービス産業が活性化。
2.民間資本による都市再生事業
・MOMOS café
造船関連の工場と倉庫の敷地を活用し、2021年、都市再生複合型の地域体験空間としてリニューアル。カフェのほか、コーヒー豆のローステイング・貯蔵からパッキングまでの全行程を見学し、バリスターからの説明を聞く。ワールド・バリスターチャンピオンを輩出し、2022年には世界コーヒー業界が選ぶロースターにも選出された。

・One Z(ワンジー)カフェ
廃倉庫を再生利用したカフェレストラン。展示会や文化イベントなどが開催できる複合文化空間。民間都市再生資金の支援を受けて造成され、コーヒー、クラフトビール、ベーカリーなど洋食を提供。倉庫空間を使って世界的なアーティストの展示会を開く。昨年開催したクリスマス・イベントには8万人が訪れている。

<ヨンド区においてカフェが盛んになった背景>
2016年12月、金属製品を生産・輸出していた会社が古い事務所を改造してカフェをオープン。この場所が若者を引き付け、地域一帯が観光名所となった。この成功を受けて一般住宅を改装した特色あるカフェが2017年から増え続け、今では154店のカフェが運営している。
こうした動きを受け、地域活性化を目的に2019年からコーヒーフェスティバルを開催、5万人の入場者を記録した。造船産業の衰退や人口減少への戦略的な対策としてコーヒー産業を育成するため多様な支援事業を推進している。コーヒータウン造成、港湾施設背後団地へのコーヒー企業誘致などを通じて、コーヒー産業全般の高付加価値化を目指している。
今年の5月23日~25日まで、国内最大規模のグローバル・コーヒーフェスティバルを開催。海外8か国、参加企業90社、150ブースを設置する予定。予算規模は4億ウォン。区の予算や参加企業からの参加費、国の人口減少対策基金や韓国コーヒー協会から1億ウォンを拠出。
ヨンド区のカフェ文化が知られるようになったキッカケは、若者を中心にSNSで拡散され、その後、自治体が積極的に関わるようになった。カフェの件数は、自社でローステイングまで行っているカフェが11店、その他、特色あるカフェが240店(2023年現在)

4月2日(水曜日)
1.大型複合カフェ「P-ARK」視察
・ピーアーク会長(リュ・インソク氏)の事業説明
ピーアークが建っている場所はかつて造船所で、主に船舶修理作業が行われていた。当社の本業は船舶の修理・修繕で釜山第1の実績を誇っている。この敷地は事業拡張のため購入したが、使い道について長い間悩み続けた。その間、国内や中国、台湾、日本などの文化関連施設を見て回った。
建物の外観はクルーズ船をイメージした。内部の構造についてはカフェのトレンドをどう捉えるかで、なかなか意見がまとまらなかったが、コーヒーカップを持って自由に店内を移動できるようエスカレートを設置するなど独創性にこだわった、完成後は来客者が自らSNSで発信し、釜山地域のみならず、全国の新聞・放送メディアが大きく取り上げてくれるようになった。

こうした大型カフェや文化施設ができたことで、文化の不毛地帯と呼ばれていたヨンド区のイメージが変わってきた。ピーアークを訪れる人は年間87万人。Pアークとアルテ・ミュージアムが契機となってヨンド区に多くの文化施設が誕生し、国内で人口消滅候補第1位と言われたヨンド区は、危機的状況から抜け出すことができた。

アルテ・ミュージアを訪れる人は年間約100万人。ピーアークの来客者を合わせると180万人がこの場所を訪れている。この二つの施設が地域経済の再生をけん引したが、民間が動き出せば後から行政がついてくる。そして民と官が同じ方向を向けば、こうした大型の複合文化空間を創造することができることを実感した。
アルテ・ミュージアムの展示はデジタル映像を駆使している。そのコンテンツは多彩で、自然環境や釜山をテーマにした実験的な映像、フランスのオルセ美術館の協力により、所蔵作品を大型デジタルスクリーンで精密に鑑賞することができる。特に美術や映像表現に関心のある学生たちの人気スポットになっている。

2.ヨンド区の活性化を推進したプロジェクトリーダーとの懇談
・前文化都市センター長の説明
2019年に実施された国の地方文化振興プロジェクトにヨンド区が選ばれ、5年間で160億ウォンの投資支援を受けることになった。その要因は人口の減少によって消滅危機にあったヨンド区の状況を憂う地域住民の声をしっかり受け止め、これを具体的な施策に織り込んだことが高く評価されたためである。
なかでも、造船業の衰退で若者の働く場所が無くなった町を文化芸術、観光の場に変えて新たな雇用機会を創出、文化芸術を通じて高齢者の孤独を癒す事業を多角的に展開したことで、ヨンド区ならではの個性的なまちづくりが達成できた。
その結果、今では映像、デザイン、出版など文化関連事業者数が増加。釜山市で最も文化芸術部門の雇用が拡大したヨンド区は「文化都市」のイメージが定着した。ヨンド区民の繋がりを表す「ヨンド体」と呼ばれるフォントが世界の4大デザイン賞を受賞したことで、まちづくりに対する区民の意識が高まってきた。
・前都市再生チーム長の説明
ヨンド区の都市再生事業は開始当初、ブルーポートとカフェ周辺の街路を行政が整備し、ONE Z、モモス、無名日記などのカフェは、その地域の可能性を見込んで投資・開発を行った。フリーマーケットや多彩な文化イベントの開催は行政が主導し、観光客や地域住民の参加が増えたことで地域ブランドとして認知度が高まった。
カフェを中心にしたまちづくりは民間の自発的な活動から始まった。小規模な文具メーカーが海を見下ろす場所にコンテナを使ったカフェをオープンした。若者のSNSを通じてこのカフェの情報が拡散し、都心にいながら港を見下ろす眺望が評判を呼び、ソウルをはじめ国内外から多くの観光客が訪れるようになった。個性的なカフェが次々に誕生している。
こうした状況を見据え、PアークやMOMOSなどが大型カフェの建設に乗り出した。即断力のあるオーナー経営者らの「コーヒーを売るのではなく、コーヒー文化を売る」との発想が行政を動かし、ヨンド区も都市戦略の中心を「カフェ」に置くなど、行政でも積極的にカフェ文化振興に関する新しい施策を打ち出している。
一つの提案として、若松区とヨンド区の若者交流を促進し、互いに滞在してカフェに関するビジネス体験や起業を模索するのも良い。具体化できるようであれば釜山・北九州両市に国際交流基金や財団などを設ける。こうした若者交流に視点を置いた民と官による起業プログラムを運用すれば、両市にとっても有益ではないだろうか・・・。

4月3日(木曜日)
ヨンド区営オートキャンプ場視察
・施設概要 : 2022年10月1日にオープン、エリア面積:42.300㎡
・キャンプ場:67区画(オート40区画、一般12区画、キャラバン15区画)、付帯施設、駐車場、散策路
<キャンプ場造成の背景>
釜山港大橋の橋脚付近では、不法駐車や釣り、野外キャンプなどによってゴミの不法投棄が頻発し、近隣住民からの苦情が多く寄せられていた。その対策としてオートキャンプ場の造成案が具体化し、2021年11月から「釜山港大橋親水空間創生事業」を推進した。

<キャンプ場運営の成果>
都心の中のレジャー空間、ランドマークとして定着。利用者数は年間約7万人(利用率79%)
第16回地方財政大賞(税外収入分野)優秀賞を受賞(2023年)
優秀公共キャンプ場に選定(韓国観光公社主管)(2024年度)
地域の働き場所を創出(期間再雇用者13名、公共勤労事業就労者6名)
