若松ホップを活用したSDGsのまちづくり

「響灘ホップの会」事務局 安枝裕司さん

若松ブランド

響灘ビオトープ園長 安枝裕司さん

2020年、フルーティーな味わいのビール「Hibiki Fresh Hops 若松エール」が誕生しました。これは若松区で収穫された生ホップを原料にした地ビールです。響灘ビオトープに日差しを和らげるグリーンカーテンとしてホップを植えたところ、ビールの原料となる毬花(まりばな)が育ったことから、これを使ったビールづくりを始めたそうです。ホップの栽培からビールの醸造、販売、さらにはホップを使った特産品の開発など、地域のネットワークを活かした取り組みを行なう「響灘ホップの会」について、事務局の安枝祐司さんにお話しをうかがいました。

「響灘ホップの会」はどんな活動をしているんですか?

安枝さん: ホップの栽培・収穫から醸造されたビールが消費者に届くまでには様々な段階があります。2019年12月に発足した「響灘ホップの会」は、ホップの生産者や醸造会社、販売店、関連企業、市民・行政などが情報や資源を互いに共有し、協働するネットワークです。

また、会の活動は地ビールの普及に留まらず、ホップを使った製品開発や廃棄されるものを再利用するアップサイクル(創造的再利用)など、北九州市らしいSDGs(持続可能な開発目標)に向けた取り組みを行っています。こうした活動が、地域活性化に繋がるとの評価を受け、昨年、「北九州SDGs未来都市アワード」において「大賞」を受賞しました。

ビールを始めようと思われたきっかけは何ですか?

安枝さん: ホップはツル性の植物なので壁面緑化に役立ち、葉っぱが茂れば直射日光を遮るグリーンカーテンになるとの思いから栽培を始めました。ホップができた時に市内の醸造所や酒販売店などに相談したところ、ビールを作りましょうとの提案がありました。

ビールを醸造するには大量のホップが必要です。一つの実から採れるホップの量は1グラム程度で、1500リットルのビールを醸造するには、約8キロのホップを使います。そこで、地元の農園や市民センター、幼稚園、小学校、大学、市の施設などにお願いしてホップの栽培を増やすことにしました。

ビールの主原料は大麦ですが、これに苦みや香りを付けるためホップを入れて発酵させます。大手ビールメーカーは乾燥ホップを使うのでいつでも製造できますが、私たちのビールは生ホップを使うので、気候や気温など自然環境に左右されます。ホップは春先に芽が出て、夏に茂って、収穫は7月から8月です。その後、一カ月の醸造期間を経て、9月中旬頃から発売されます。

醸造とか収益の仕組みはどのようになっていますか?

安枝さん: 一昨年は4回醸造して1万6千本ほど作ったんですが、昨年は夏の猛暑でホップの生育が悪く、粒が小さかったため、その半分の8千本程度でした。今年は、3~4回醸造できればと思っています。醸造については、クラフトビールの全国コンテストで何度も最優秀賞を受賞した「門司港地ビール工房」にお願いしています。「響灘ホップの会」の会員でもあるのでの、若松で栽培された生ホップを使ったビール醸造にはぴったりです。

地方に行けば、醸造所が自分たちで開発した色々なクラフトビールを販売していますが、他と違う私たちの特徴は栽培、醸造、販売をそれぞれ別の団体が行っている点です。こだわりを持った酒屋さんとか、北九州ギラバンズや若松のジャズ愛好者など、多くの市民や団体が色んなシーンで関わり、ホップを通じた繋がりが広がっています。

醸造所は地ビールを卸す際に、酒販店は販売する際にそれぞれ収益があります。また、販売価格の内、一缶当り10~20円程度が自然環境保全に還元されますから、購入された人は地元の環境保全に貢献したことになります。更に収益の一部(約10万円/年)を響灘ビオトープの自然環境に還元しています。

ビール以外にホップを活用した製品開発について教えてください。

安枝さん: ビールを作った後にでる大麦の粕は食物繊維を多く含み、低糖質、高タンパクですから、牛の飼料などに使われますが、多くは産業廃棄物として廃棄されています。低コストで乾燥・粉砕できれば、もっと手軽に広く使われる「アップサイクル」製品に生まれ変わると思います。

また、昨年には若松産のホップを用いたヘア化粧品を開発しました。ドイツではビールで髪を洗う習慣があるそうで、髪ツヤがよくなり、頭皮にも効果があるそうです。芦屋にある化粧品メーカーと協力して、毬花から抽出したエキスに天然由来成分を加えて作ったシャンプーやトリートメントを「パルセイユまりばな」という製品名で販売しています。

このように、地ビール以外にもホップを使った製品開発に取り組みながら、地元機関と協働して「第6次産業」を推進し、製造や販売の各段階での市民参加を促し、売上の一部を自然環境保全に活用するなど、SDGsのまちづくりを実践しています。最近では、北九州市内だけでなく、四国などからもわざわざ来てくださるなど、SNS告知を通じた活動の輪が広がってきました。

※ 6次産業とは、「1次産業(農林漁業)×2次産業(加工)×3次産業(販売・サービス)」で、農林漁業者の所得向上を図るため生産物の付加価値を高める取り組みのこと。

※ 若松ホップの会のホームページ https://www.hibikifreshhops.com/