「アグリゾート」のネットワークを全国へ

地元企業<我が社の魅力>
株式会社agresort

若松を興す

代表取締役 小村泰秀さん

広告会社での仕事や生活に違和感を覚え始めた頃、新しいことに挑戦するわくわく感を求めて農業に飛び込んだ小村さん。プランターで植物栽培すらしたことのない全くのド素人ゆえに、先ず農業のことを知らなければと、若松の農家で修行に励んだそうです。七年間の就農準備を経て、2019年夏、それまで思い描いていた「みんなでシェアする会員制農園」の第一歩を踏み出しました。それから五年、区内三カ所で無農薬栽培を行っている「アグリゾート農園」についてうかがいました。

農園を「アグリゾート」と名付けた狙いはなんですか?

小村さん: この農園に関わる方々に、ここで過ごす時間が心地よく、楽しく、幸せな気持ちであって欲しい。そんな想いから農業(Agriculture)に「何度も通う場所」、「自然の中でリラックスできる場所」という語源を持つリゾート(Resort)を加え、「アグリゾート」と名付けました。特に、コロナ禍では、周りに気を使い息苦しさを感じた時、ここに来れば人のことを気にせず、自分らしくいられる場所になったと聞き、その思いを強くしました。

また、環境にやさしい農業であると同時に、生産者と消費者が一緒につくるというのが「アグリゾート」の特徴です。大地から得られる豊かさや栽培することの厳しさを互いに分かち合い、助け合うため、一般の人も農業に関わる会員として参加してもらっています。

つまり作物の栽培とそれに適した農園の環境づくりに消費者も参加して、収穫やリスクを共有する仕組みです。農家と消費者が手を取り合い、子どもたちに食べさせたい野菜をみんなでシェアする会員制農園にすることで、人と環境に優しい持続可能な農業が実現できると思います。

― 会員制の仕組みはどのようにして生まれたんですか?

小村さん: 最初の2年間は農家で修業させてもらい、自分で作った野菜を施設販売したり、八百屋さんに買い取ってもらったりしながら、本質的な農業、つまり人や地球環境に優しい農業をどうやって、僕のような新参者が継続できるか考えるなかで、最終的に行き着いたのが今のような仕組みです。

この事業には準備段階から応援者が集まって、この場所でどのような仕組みにすべきか話し合いました。会社組織にする前から手伝いに来てくれたり、野菜を買いに来てくれた人など、応援者に恵まれ2021年に法人化することができました。

何もなかったこの場所がどんどん変わってきました。今では手狭になったので、近くに二カ所、農地を増やしています。会員数は全てのプランを合わせると、250名くらいになります。

具体的にどのように運営しているんですか?

小村さん: はじめの頃は、収穫を目的とする「オーナー会員」がほとんどで、自分の畑だという認識で関わっていました。そうする内、畑にはなかなか行けないけれど応援をしたいとか、飲食店の方々から問い合わせがくるようになりました。

「オーナー会員」の場合、収穫期の野菜を自由に持ち帰ることができますが、飲食店はそのプランに該当しないので、野菜を有料にして会費をできるだけ抑えたプランにしています。その他、地域貢献に関心のある企業の場合、農園内に看板を立てるなどして応援頂いています。いちばん入会しやすいのは「エール会員」ですが、全国に130名ほどいらっしゃいます。

全国で「アグリゾート」に取り組んでいる例はありますか?

小村さん: 一番早く形になったのは、宮城の「アグリゾート・森の美術館」です。小学校の廃校を芸術家の皆さんが使っていたんですが、それを引き継いで農業や染物、織物をする方たちが協力して藍染め用の藍を栽培しています。

岡山の方でも「アグリゾート」に似た取り組みが行われています。各地に講演でうかがいますが、逆に私の方が学び、感銘を受けるケースが多いですね。素晴らしい取り組みをしているところが全国には沢山あります。一緒にやっていくきっかけが、「アグリゾート」を通じて芽生えるといいですね。

現在、「アグリゾート」の取り組みは、宮城や岡山、山口、長野、静岡、沖縄、宗像などに拡がっています。宗像の場合は畑でなく、山が中心で、会員制で森を管理・運営しようとしています。「アグリゾート」として、姉妹関係を結び会員同士が行き来できるかたちを検討しています。

若松の「アグリゾート」にはどんな特徴がありますか?

小村さん: 各コミュニテイは集まる人達によって特色が違って来ます。ここ若松では農薬や化学肥料を使いたくないと思う人が多く、どのような方針で進めるかは基本的に話し合いで決めており、土壌分析を研究機関に依頼しています。健康な土づくりで一番大事なことは、肥料を多く入れ過ぎないことです。昔はこれを知らず、便利さから化学肥料をたくさん使っていたと思います。

決して農薬、化学肥料を否定するつもりはありませんが、今やっとこれまでの農業を見直す段階に入ったと思います。海外ではいち早く取り組み、日本も有機農法に切り替える方向に向い始めています。

これからの目標は何ですか?

小村さん: 全国に「アグリゾート」のネットワークが広がることもそうですが、「種」を繋いでいく活動に力を入れて行きたいですね。全国各地の「アグリゾート」で種を取っておけば、種の交換ができます。例えば、どこかの地域で大根の栽培に失敗してしまったとしても、ほかの地域から種を借りて栽培し、次の年にお返しするなど、「シード ライブラリー」という考え方を通じて、種の貸し借りができるようにしたいですね。

また、子供たちが農業にもっと関心を持てるような仕組みとか、海外の方を対象としたアグリーツーリズム等の体験型プランを通じて、感動を共有できるような取り組みにも関心があります。

写真提供 : agresort(アグリゾート農園)

アグリゾート農園 https://agresort.jp/